目線の先に、
気持ちいいぐらい大きな入道雲が遠い空に佇んでいた。
ちょうど部屋にあるテレビから梅雨明けを告げるニュースが聞こえてくる。
『梅雨明けか……』なんて思っていると、
「梅雨明けが発表されましたが、今後も急な夕立などにはご注意下さい」と
画面の中で綺麗な顔をしたアナウンサーが告げていた。
それを聞きながら、
また空に浮かぶ入道雲を見上げた。
前に彼女から教えてもらったが、
あの雲は激しい雨や雷をつれてくる雲らしい。
彼女はそんな雲や雨なんかも『入道雲や夕立は日本の夏の風物詩なんですよ』と言って目を細めてたが、
急な雷雨はどう考えても困りものにしか考えられない。
そしてそれを連れてくるあの入道雲は厄介者意外の何物でもないじゃないか。
俺だったらそう考える。
でも彼女からしたらあの雲もいきなりの激しい夕立も、
ただ美しいものに見えるんだろうか………。
「アルフレッドさん、お茶が入りましたよ」
不意に後ろから菊の声が聞こえた。
声の方を振り向くと、お茶のはいったグラスをおぼんに載せて立っている彼女が居た。
彼女は俺の隣まで歩いてくるとそっと腰を下ろし、
おぼんの上の2つのグラスうち片方のグラスを俺に差し出した。
氷がはいってとてもよく冷やされたお茶は、
普段歯が溶けそうに甘いジュース類ばかり飲む俺にも充分美味しいと感じた。
それからしばらく、
夏の暑い日差しのなか縁側に腰掛けながらたわいもない話をしていた。
さっきのニュースで「今日は真夏日でしょう」と言っていたが、
ニュースのとおり蒸し暑く過ごしにくい日であったが、
何故かこの縁側という場所は風通しがよく心地よい涼しさがあった。
それは確かに風通しがいいこともあるが、
彼女にも原因があるのだろう。
彼女はこの暑さのなかでも涼しい顔して俺の隣に座っている。
彼女がこの土地の気候になれているのはもちろんだか、
汗一つかかずこの場にいるのには毎回驚かされる。
そして、
彼女の短く切り揃えられた髪型も涼しそうだ。
肩上辺りで切り揃えられた綺麗な黒髪は彼女によく似合っている。
昔、
彼女の綺麗な髪は、もっと長かった。
それがあの痛ましい大きな二度の戦いの前辺りか、
それよりも前辺りで短くなりそれからはずっとそのままだ。
俺は彼女の長い髪も好きだったが、
今の短く切り揃えた髪型の方がもっと好きだ。
だって彼女に一番似合っているんだぞ!!
「アルフレッドさん」
「なんだい?菊」
「実は今度髪を結んでみようと思うんですが、どう思います?
あの方が大分長くなったからと言って綺麗な髪飾りを下さいましたので……」
「ふぅーん……」
彼女はそんな俺の気のない返事に少し怒りながら自分の髪へ手をやった。
彼女の手は頭の上辺りから肩を過ぎ、
胸の辺りまで髪を撫でるように何度かそっとおろされた。
俺はそんな彼女の手の動きを横目に見ながら、
目線をさっきの入道雲へと戻した。
やっぱり彼女には短い髪が一番似合うと、
心の中で思いながら……。
君には入道雲が白く見えるらしい
俺には、
まがまがしい色にしか見えないいんだぞ…