絹で出来た鎖が、
優しく足首に巻き付いています。


重たくもなく傷もつかないこの鎖が、
きっと世界で一番強硬な鎖だと頭の中で私が笑っていました…。



ここで生活するようになって、
一体どのくらいの月日が経ったのでしょうか?


いや、
実はそれほど気にはしていないんです。


一応この部屋にはきちんと窓と呼べるものがあるので、
そこから射す日の光や夜の闇を感じ取れば大体分かることです。
ですが生憎それを事細かに指折り数えるような性分ではありませんし、
色々事情がございまして気が付いてみたら、
あれ?もう1日や2日経っちゃっていました?という時もあります。


ですから、
本当にどうでもいいことなんです。


それにここでは時間を持て余すことはありますが、
退屈することはありませんし。


何せあの方は出来る限りの時間を私と居てくださいますし、
お腹がすけば美味しいお料理を食べさせてくださいます。
甘美な言葉は四六時中浴びせられるうえ、
面白いお話もたくさん聞かせて下さいます。


もちろん、
この身を色んな意味で愛して下さいますし……。


あら、
よくよく考えたら時間を持て余すことも余りありませんね。


そういえば今まで考えませんでしたが、
私が居なくなって外の世界はどうなっているのでしょうか?
私が居ないことに大騒ぎになっているのでしょうか?
皆様探して下さっているのでしょうか?
それとも案外平然としていたりするのでしょうか?


ふふ、
どうでもいいですねそんなこと。


そんなことより、
私が外の世界の事を考えていると知ったらあの方はどう思うのでしょうか?


私が少しでも外の世界に思いを馳せたと言ったら、
あの方はお怒りになるでしょうか?


外の世界に嫉妬して、
私をもっと奥の奥に閉じ込めてしまうでしょうか?


そうでしたら、
とても喜ばしいのですが……。



あら、
そんなことを考えていたらあの方がいらしたようです。


あの方の足音が、
この部屋に近づいて来ています。


ほら、
もう部屋の近く。


あぁ、
もう部屋の前に。


あぁ、
もうすぐ部屋の中に!!


「悪ぃな菊さん、一人にしちまってよぉ…」
「いいえ、大丈夫です。お待ちしておりました、サディクさん……」


あぁ、
あの方の声がします。


もうすぐ、
もうすぐ私の元へ来てくださいます。


そしていつものように、
この目を覆う布を優しい手つきで外して下さり、
あの逞しい腕で私を胸の中へと閉じ込めながら、
私の唇に優しく甘い口付けをしてくださいます。


もうすぐ、
もうすぐに………。









甘い災いは楽園という檻の中に


あぁ、
私は本当にあの方が好きなようです……













病んでいるんじゃない。
幸せなだけなんです……。