彼女の長い黒髪が目の前を横切っていく。


夕食後、片づけをしている彼女の後ろ姿を居間に座りながら見ている。
自分も手伝うと言ったのだが、「サディクさんはお客様ですから」とやんわりと断られてしまった。
そんな彼女の好意に甘えて今は彼女の愛犬と共に出されたお茶を飲みながらゆっくりしていた。


着物の上からすっぽり被った割烹着姿がより彼女を温かな雰囲気にさせていて、
なんだか言いようのない幸せな気持ちになった。



自分は、
彼女の温かさが好きだ。


優しさが好きだ。


控え目でいてさりげない気配りや、
物腰の柔らかなところも好きだ。


それでいて、
本当はとても芯が強いところも、
実は頑固でいてこれと決めた事には真っ直ぐなところも好きだ。


しかし、
時々周りに流されすぎるところや、
誰にでも手を差し伸べ自分を二の次にするところは心配だ。


もっと、
自分を大事にして欲しい。


それに、
もっと自分に自信を持ってほしい。



彼女ほど、
魅力的な女性はいないのに。
彼女ほど、
愛おしくなる女性はいないのに……。



だが、
あまり周りの奴らにあの優しい笑顔を振りまかれるのは気に染まない。


彼女は周りからとても好かれているのだ。
只でさえ近所のガキとよく彼女のことで喧嘩になるのに、
これ以上ライバルが増えるのは御免蒙る。



彼女が笑顔を向けるのが、
自分だけならいいのに………。



そう思っていると、
甘い香りと共にまた目の前に美しい黒髪が横切った。


「終わったのかぁい、菊さん」
「はい。すみません、お待たせして」
「いや、こっちこそすまねぇ。何から何まで……」


そう言うと、
彼女はまた「いえいえ、お客様なんですから」と笑ってお茶を入れ直し始めた。



それを眺めながら、
やっぱり彼女が自分だけのものならと思う。



「はい、お茶の御替りですサディクさん。……サディクさん? って、えっ!!」


そう言う彼女の手を掴んで、
自分の元へと引き寄せその柔らかな身体を腕の中へと閉じ込めた。
温かなぬくもりが、
腕の中の存在から自分へと伝わっていく。


「あ、あのっ/// サディクさん///」
「菊さん、好きです……」
「っ!!//////」
「誰よりも、愛してやす……」


「………私も、です//////」と小さく聞こえた声に、
やはりどうにか彼女が自分だけの存在にならないだろうかと思案する。



この上なく贅沢な願いだと、思いながら…………。






贅沢な願い










サディ菊は、
ものすごく甘いイメージがあります。


しかし、
女体化の意味があまりないのは気にしてはいけません。