ほらほら付いておいでなさい、
甘いお菓子をあげましょう。
いつもの帰り道を歩いると、
どうにも可笑しなことに気が付いた。
周りを見渡してみてもそこには変わらない自分の町の風景なのに、
何かかが違うような気がしてならない。
迷った?
いやいや…。
この道の外灯ももう少し行った所に見えている神社の鳥居も、
何一つ変わったところはない。
そう思いながらも、
心に巣くう不安がだんだん大きくなっていく。
なんだか心細くなってきたところで、
ポケット中の携帯へと手を伸ばしてみる。
こういう時にはあのデジタルの光でもなんだか安心できる気がして、
急いで取り出して開いてみたはいいものの、
期待していた機械的な光はそこにはなかった。
画面は、
真っ暗だった。
可笑しい。
さっき駅で開いたときには電源が付いていたし、
電池だって切れそうになかったのに……。
何度も電源を入れようとボタンを押してみるもまったく電源が付く気配はなく、
ただ大人しく手の中に納まっているだけだった。
これは本当にどうたんだろう?。
仕方なく早く家へ帰ろうと歩く速度を上げてみたのはいいものの、
歩く速度が上がれ上がるほどだんだん心に巣くう不安を大きくするだけだった。
なんだか余計に自分の周りの雰囲気が可笑しくなった。
どうして、
何の音も聞こえないんだ?
どうしよう?
何だ!?
何が起きてるんだ!?
何がどうなってるんだ!!??
泣きそうになりながらも何とか足を動かす。
そうしてると足が縺れて、
倒れそうになる。
あぁ!
倒れる!!
そう思った時だった。
『どうなされましたか?』
『迷われて、しまわれましたか?』
そう、
声を掛けられた。
気が付いてみると、
自分は倒れることなくその場に立っていた。
周りを包む濃い霧に惚けていると、
目の前に誰かが居る気配がした。
『おやおや、どうやら本当に迷われてしまわれたらしいですね』
そう言われてやっと自分が不思議な場所に居ること気づく。
『さぁ付いてきてください。こちらへどうぞ』
そう言うと、
その人はどんどん歩いていく。
自分も慌ててその後ろを付いていく。
その人の後ろで揺れているのは、
大きなふわふわの尻尾……?
『たまにいらっしゃるんですよ、こうして迷いこんでしまう方が。』
その人は優しい明かり灯す提灯を揺らしながら、
歩いていく。
なんだかその人からもその提灯の灯りと同じような暖かさがあって、
先ほどまで不安や恐怖はすっかりと心から居なくなっていた。
先ほどまで泣きそうだったくせに、
今はなんだかもうしばらくこの人と居たいと思うようになっていた。
そうしているうちに、
なんだか霧が晴れはっきりして来る。
完全に霧が晴れる場所までもう一歩というところまで来ると、
その人は立ち止まりゆっくりとこちらへと振り向いた。
『さぁ、付きましたよ。私はここまでしか行けませんので、こちらで失礼させていただきます』
そう言われると、
周りの濃い霧がいきなり晴れ自分の家の近くまで来ていることに気が付いた。
驚いて先ほどの人を探していると、
『もう、迷われてはいけませんよ……』
そう、
聞こえてきた。
そのまま呆然としていると、
いきなりポケット中の携帯が震えた。
吃驚しながらも携帯を取ろうとするとポケットの中に何かある事に気が付く。
慌ててポケットの中に手の入れ中のものを見てみると、
いくつかの棒つきのべっこう飴があった。
首をかしげながらも、
そのうちの一本を取って包み紙を取って口の中に入れてみると、
優しい甘さが広がった。
その甘さは、
まるでさっきの人のようだった………。
甘い甘い、べっこう飴
もう一度迷ったら、
また会えますか?