恋とは、棘を掴むようなものです。
恋をするということは、恋した相手から綺麗な花を咲かせている薔薇を渡されるのと同じなのです。
その薔薇は確かに美しいですが、茎には大量の棘を持っていてそれを私は素手で受取ります。
そっと持てば何ら問題はないのですが、好きな方から渡された薔薇なのでどうしても強く握りしめてしまいます。
誰にも渡したくない、自分だけのものにしたいがために。
そのため無数の棘が手の皮膚に食い込み赤い血が滲み、そしてその血は私の手から茎へと伝い地面へと落ちる雫となるのです。
もちろん薔薇を掴む手には痛みが走ります。
けれど、決してそれを相手へ悟られてはいけないのです。
薔薇を受け取ったら、微笑んでいなくてはならないのです。
手に滲んだ血も痛みも知られてはいけません。
それは私の醜い心の表れなのですから。
独占欲や嫉妬心、不安や悲しみの表れなのですから。
だから必死に隠すんです。
恋とは、そういうことなのです。
「どうしたあるか? 菊」
「……いいえ、何でもありません」
庭に咲く薔薇を見て急に黙った私を、耀さんが心配そうに見つめてきます。
そんな耀さんに返事を返すと、私は一度心を落ち着かせてから彼へと顔をむけ微笑み返します。
「いえ、庭の花が綺麗だと思いまして」
「あぁ、そうあるな。何せ菊が丹精込めて育てているあるからな」
そう言って耀さんは笑って私の頭を撫でてくれます。
その手は、とても温かく優しい手でした。
私の手はもう随分長いこと、茨を掴んだままです。
どうも私は人一倍隠し事が上手いらしく、今もその手の傷には気づかれずに過ごしています。
しかし、本当はずっと待っているのです。
いつの日か、傷だらけの私の手に相手が気づいてくれることを。
そして、優しい手で私の手を包んでくれることを。
『もう、その薔薇を掴むのはやめるある』と、言って下さることを。
私は、待っているのです。
棘を掴む
薔薇が枯れてしまえば、恋は『失恋』に
薔薇を自分から捨てれば、恋は『諦め』に
薔薇を貴方が取り去って下されば、恋は『成就』に……