あの子に笑いかけてやらなくなって、
一体どのくらいが経つのだろうか。
先の大きな大戦で、
あの子がボロボロに負けてから、我はあの子に笑いかけたことがない。
それどころか、
仕事などの用事以外では口もきかないうえ、
口をきいたとしても大分素っ気なく冷たい態度を取っている。
そのたびにあの子が傷ついていることも知ってるし、
周りの奴らから非難の目で見られてるのも知ってる。
それでも、
我はそうするのを止めない。
ただ、
悲しかったのだ。
ただただ、
悔しかったのだ。
大切してきたあの子に、
裏切れたのが。
大事に大事に育てたあの子に、
離れられてしまったのが。
自分たちは人ではない、
国だ。
つまり、
自分たちの意志とは別に行動や思考を行わなければいけない時がある。
あの子だってきっとそうだったのだろう。
優しく義理がたいあの子のことだから、
きっと辛い思いで我に刃を向けたに違いない。
他の奴らからも、
何度それを諭されたことか。
しかし、
止めるつもりは毛頭ない。
そんなこと、
そんなこと我だって重々承知だ!
でも、
止めてなんかやるものか!!
今日もまた国々が集まって、
殆ど意味の無いような会議が始まる。
珍しく始まる前から来て席に座っていると、
あの子が我に側へと近づいて来た。
「こんにちは、耀さん」
「…………」
「あっ……。すみません、会議前に……」
返事を返さない我に、
また傷ついた顔をして去っていこうとする。
いつものことだと、
それを横目に見ていると、
我からそれほど遠くない席に座っていた美国が立ち上がりこちらに近づいてきた。
そしてあの子の肩を掴むと、
反対の手で懐から取り出した小さなピストルを一気にあの子の額へと振り落とした。
「っ!!」
一瞬にしてあの子は額から血を流し地面へと崩れ落ちる。
周りは何が起こったのか分からず一瞬シンッとしたものの、
すぐ我を取り戻した徳国があの子に駆け寄り、
法国と英国が特に暴れてるわけでもない美国を羽交い締めにしてた。
「『ごめんなさい』は?」
「……!!」
「『ごめんなさい』って、言ったらどうなんだい?」
美国が発したその言葉は、
我に対してのものだった。
先ほど起こったことに騒然となっている部屋のなかで、
その言葉はだけがはっきりと我の耳に入ってきた。
我は騒がしく動き回る空間のなかで、
ただ座っているしか出来なかった。
わかったことは、
昔も今もあの子を愛しているということだけだった……。
唐突に降りかかるはいつだって現実だけなのに
『憎しみ』はどうしようもなく、
『愛』はどうすることもなく……。