夕方の人々がごった返した店内に入るとクリスマスムード漂うBGMが流れている。
『そういえばそんな時期あるか………』と頭の端で思い足を進めていると、周りの店から漂う甘い匂いや総菜のいい匂いが鼻を掠めさて何を買おうかと思案する。
仕事のためにこちらへ来たのでついでに菊の家へとよろうと思い電車へと乗った。
まぁ、自分の中では菊の家へ行くのが日本へ来た本当の理由なのだが………
いつもは日本での仕事なら大体菊も一緒なので仕事を終えたあと一緒に菊の家に帰るし、
今回のように自分一人の場合でもそのまま直行するのだが、今日は少しだけ寄り道をしていた。
たまたま立ち寄った駅の構内にあったそこは一階は洋菓子や和菓子、総菜ものなどの店が並び二階には書店や雑貨店が並んだちょっとした商業施設になっていて、
いつも突然訪ね来る自分を何だかんだ言いながらもてなしてくれる菊に何かちゃんとしたお土産を買っていこうと思い足を踏み入れたのだった。
とは考えたものの………
「色々あるのはいいあるが、何がいいあるか………」
ああ見えて結構食い意地が張っている菊のことなので食べ物の方がいいのだが、如何せん店の種類も多いうえ一つの店に置いてある物も多数なため迷うに迷う。
色々思案した結果自らが国から持ってきたお土産の中国茶があることを思い出し、
総菜ものよりも菓子の方いいあるなと決断つけるが次は洋菓子にしようか和菓子にしようかで頭を悩ませる。
和菓子はともかく洋菓子についてはとんと疎いため、
日本やまたは世界的に有名な洋菓子の店々のガラスケースの中の綺麗な菓子たちを見て回ったところでどうしたものかと思案顔になるだけだ。
やっぱり洋菓子じゃなく和菓子にしようと歩き出すとある店の前でふと足をとめた。
それは前に菊の家で出されたことのある『今川焼き』の店であった。
すぐそこで焼いて販売してるので甘くていい匂いが漂ってきていて、
『そういえば菊はこれが好きだったあるな………』なんて思いだし、それを頬張りながら美味しそうに笑っている菊の顔を思い出していると………
「こんな所で何やっているんですか耀さん?」
「っえ!? って菊!!」
いきなり後ろから今まさに思い浮かべていた人物の声が聞こえて来たと思い驚きながらも振り返ってみると、そこにはやはり菊が立っていた。
スーツではなく私服であることから仕事帰りではないとわかるうえ、
私服は私服でも軽く外へ出る時の洋服ではなく余所行きの着物姿であることから何か大事な用の帰りだということがわかる。
その事実に『行き違いにならなくてよかったある………』と、いつも突然訪ねることを少し改めようと考えていると
「で、どうしたんですかこんな所で? 見たところによるとお仕事帰りのようですが……」
「あ、あぁ!!そうある!! 今日はこっちで仕事があったあるからその帰りにお前の所へ寄ろうとしてたある!!」
「……また突然ですね。どうせあなたの事だから仕事の予定が入ったと同時に私の所へ来るおつもりだったのでしょう?
そういう前々からわかっていることは事前に連絡をくださいといつも言っているのに」
『今日はたまたまここで会えましたよかったものの行き違いになっていたらどうする御積りだったんですか?』とさっきまで自分が思っていたことをズバリ突かれ、
少し自分がいたたまれない気分になった。
「それにしても珍しいですね、あなたがこんな所にいるなんて」
「それは……、いつも突然訪ねて行ってるあるから何かお土産でもと思ったあるよ。一応家から中国茶は持ってきたあるがそれだけじゃ寂しいと思ったあるから……」
「本当に珍しいですね、ケチなあなたにしては。そう思ってくださるなら事前に連絡を下さい」
「……お前も大概失礼なやつあるな」
そう思いながら菊の方へと冷ややかな視線を向けるも何食わぬ顔でそれを受け流されてしまう。
そんなことをしていても埒が明かないと、
さっきまで眺めていた店の方へと近づき店員に『粒あん二つと白あん二つ』と簡単に注文して暫くして今川焼きが入った袋を受取勘定をすませると、
菊の方へと戻り『さぁ帰るあるよ』とさっさと足を進め菊もそれへと続き歩き出す。
「お土産が今川焼きなんて、結構安上がりですね」
「ったく、さっきからお前は文句が多いあるよ! それに我に洋菓子はわかんねーあるし和菓子もそこまで詳しくないある」
「それもそうですね」
そう言いながらも足を進めて施設から出た駅構内の人が多く行きかいしている中を二人して歩いていく。
「でも、覚えていて下さったんですね……」
「っえ? 何があるか?」
「私が、今川焼き好きだってことをです」
「あぁ、前にお前が美味しそうに食べてたあるからな。たまたまあの店見つけてそれ思い出したある」
「そうですか……」
そう言いながら少しだけ菊が振り返り微笑みながら小さく、
「でも、嬉しかったです。今川焼き買ってくれたことも、今ここで耀さんと会えたことも……」
『本当に行き違いにならなくてよかったです』と言うと少し顔を赤くさせた菊はまた前を向いて歩きだした。
それを聞いて暫く呆けていたが、すぐに顔に満面の笑みをのせ菊へと近づくとその手を取って歩き出した。
結果的に手をつなぐことになったことに『こんなに人が多い所で恥ずかしいですよ!!』と小声で叫ぶ菊を無視して家路を急ぐよう歩く速度を少し上げた。
早く帰って、
我の入れた中国茶を飲みながら今川焼きを二人して食べようと考えながら。
寄り道してみるのも、いいものですね
友人とある山手線の駅の構内で買い物してる時に思いつきました。
にしても、
スーツ着たにーにがデパ地下に似た雰囲気の場所で買い物って(笑ww