吐きたいのに、
何も吐き出せない。
それが一番辛く、苦しい状態です。
いつだって、
いつだってそうなのです……。




昼過ぎのホテルのロビー。
午前の会議終了し休憩時間になり、
各自思い思いに昼食を取ったり雑談や打ち合わせに時間を使っています。
私といえば朝からどうも体調が思わしくないせいか食欲がなく、
周りの方々にそれを悟られぬよう休憩時間が始まったと同時に誰にも捉まらぬようすばやく一人部屋を出て、
ホテルの外へ散歩という時間つぶしをして今こちらへと戻ってきたところでした。
散歩といっても体調のこともあり、
外を出てすぐ裏に回りあまり目立たないベンチで腰掛けていただけなのですが。
今回は本当に運がよく、
会議室を出るとき誰にも声を掛けられずにすんだので、
一人で木陰のベンチで座って過ごせたおかげで体調も朝よりは良くなった気がします。
本当に、
良かった……。


そう思っていると、
不意に声を掛けられました。
声のするほうに視線と体を向けると、
目の前にはあの方がいました。


私は一気に自分の体調が、
朝よりも酷い状態になるのを体全体感じました。
それでも私の頭は長年鍛えたかいあって、
すぐさま私の顔に笑みを浮かべるよう指示し、
私はすぐその表情を作り上げました。
完璧に。
笑みを浮かべる、
それだけを。


それからあの方と私は、
何気ない雑談や世間話をしていました。
あの方は終始和やかな表情を浮かべ本当に楽しそうにしてらっしゃいましたが、
その間にも私は身体全体に入れる力を段々と強め、
すべての神経と神経をすり減らしていました。


またです。
また頭が重くなってきました。
今目の前に居るこの人の言葉や聞いて、表情を見て、雰囲気を感じて、
それらの情報をすべて頭に入れた瞬間、
私は分からなくなりました。
私は私の知りうるすべての事柄から今ここで吐き出すべき言葉を探しています。
私が今ここでどういう行動を取ればいいか探しています。
私が今発すべき気持ちを探しています。
探しています。
いつも。
いつでも。


でも、
でも、
でも、
見つからない!!
見つけられない!!




家に帰ってきて玄関を開けますと、
その瞬間に酷い吐き気に襲われました。
気が狂いそうな吐き気にすぐさま靴を脱ぎ捨て、
トイレへと駆け込み身体を丸め、
どうにか口をあけ体の奥そこからせり上がる何かを吐き出そうとしました。
しかし朝から何も口にしていない私の胃は空っぽで、
どんなに口に指を入れようが何をしようが少しの胃液を外へ出すだけで、
どうしたってこのどうにもならない気持ちの悪い何かを身体から出すことはできませんでした。
そうしてずっしり重い身体を支えきれず床へとへたり込んでいると、
目から冷たい液体が落ちていることに気が付きました。
それはついさっきほどの時に目にためていた生理的なものではなく、
また別のものでした。
私は頬にその冷たい液体が伝っていくのを感じながら、
私が探しているのはそれではないと否定しました。
私が吐き出したいのはそんなものではないと。
そんな言葉ではないと。
そんな感情ではない、と……。







探し物











捜しているのではない、
探しているのです……。


『あの方』が誰かは、
好きにご想像してください。